「木」「林」「森」 (02−09−20)
「木」は大地に根を張り、天に向かって枝を伸ばす木の形を写した象形文字です。そして「林」と「森」、どちらも木という文字を2個、3個と合わせることで、たくさんの木が集まって生えているところを表しています。とても解りやすい文字ですが、さて、林と森の違いが判るでしょうか。
文字だけ見ていると、木が2本の林よりも木が3本の森の方が、より規模の大きな木の群生地を表すように感じられますが、そうでしょうか。ターザンの活躍するアフリカの果てしなく広がるジャングルは密林、南米アマゾン川流域の世界最大の植生地帯は熱帯雨林といずれも林です。そして村の鎮守の森は必ずしも大きくはありません。
漢字の「林(リン)」の元の意味は、木を二つ並べた形態そのままに、木が多く集まって生えている場所、日本でいう林も森も含めた森林全般を表しました。「森(シン)」は二つの木の上に更に木を載せることで、木の生えている場所というよりも、木が密集して生えている様子を意味したようです。
日本語の「林(はやし)」は「生(はやし)」から出た言葉で、樹木の生え茂ったところという意味で、漢字の「林(リン)」の元の意味に通じます。
日本語の森(もり)の方は「森(シン)」とはやや異なり、林(はやし)と同じように樹木の生え茂ったところを意味しますが、中でも周囲より高く盛り上った形をしているもの、また守り神の住むような奥深い樹木の茂みといった意味で用いられます。日本語の森(もり)は語源的に「盛(もり)」や「守(もり)」と通じるものがあるようです。東北地方では小高い丘を「もり」と呼びます。また漢字の「杜(ト)」は、木や土で通路を「塞ぐ」という意味の文字ですが、これを日本では「もり」と読み、神社の周りの木立の意味に用います。「杜」は「社」の「示」を「木」に置き換えたものとして、神を守るも樹木の群生、神の降りてくる茂みという日本流の解釈をしたものです。
日本語の林と森では、比較的規模の小さなものも含む神社の森(杜)を除けば、一般に林より森の方が規模の大きな樹木の茂みを意味します。ただし原生林、防風林など漢字の熟語の場合には、一般的な森林という意味で、規模にかかわらず林の方が用いられます。これは元の漢字の意味では、森には一般的な森林という意味が無いからだと思います。
英語では林や森を意味する単語はwood(woods)又はforestです。ロビンフッドが活躍するのはシャーウッドの森ですが、シャーウッドの綴りはSherwoodです。Sher+woodですから、本当なら「シャーの森」と訳すべき所を、Sherwoodが固有名詞なので「シャーウッドの森」としたのでしょうか。例えば東京の荒川を英訳するときも「Ara-river」ではなく「Arakawa-river」と訳します。
そう思いながら調べてみましたら、私の予想は大外れでした。シャーウッド森の原文はちゃんと「Sherwood
forest」で、Sherwoodはこの森のある地域の地名ではないでしょうか。ついでながらforestの方がwoodよりも規模の大きなもの、自然のままに近いものを指すようで、日本語的にはwoodが林でforestが森という感じのようです。「Sherwood
forest」はさしずめ「館林森」とか「富田林森」というところでしょうか。
林や森といえば、今地球規模で森林の減少が大きな問題になっています。人口の増加による開発や資源の大量消費に伴う森林の伐採です。化石燃料の大量使用と炭酸ガスを吸収する森林の減少は、何億年もかけて形成されてきた大気の組成を、僅か100年で変化させ、これによる地球の温暖化が色々な問題を引き起こしています。温暖化による異常気象により、一方では干ばつで砂漠化が広がり、他方では大洪水により、年々広大な面積の耕地や居住地が失われています。また海水面の上昇で珊瑚礁の島々や海抜の低い地域では、かなりのスピードで陸地が浸食されています。
マクベスは「あなたはこの国の支配者になる」という魔女の予言に乗せられて野望に走り、やがて「森が動くことでもないかぎり滅びはしない」という魔女の言葉の裏を突く「動く森」によって滅ぼされます。地球の支配者を錯覚した奢れる人類も、自らの手で森を動かし(減少させ)、自滅への道を歩んでいるように見えます。
地球の歴史はおよそ46億年、地球上に生物が誕生したのは35億年以上も前といわれますが、人類が登場したのはまだほんの500万年ほど前です。ここで人類が滅んだとしても、地球の歴史からみればほんの一瞬の出来事にすぎません。ただし、これまでに環境の変化などに適応できずに地球上から姿を消していった無数の生物のなかでも、人類はその生存に適した環境を自ら破壊して退場した希有な例として、地球の記憶には残るかも知れません。そして、人類がいなくなった地球では、豊かな森林が再び地表を覆い尽くすのではないでしょうか。